2005年08月27日

トーク・トゥ・ハー(2002/スペイン/監督:ペドロ・アルモドバル)

ほぼネタバレ注意。

バレリーナ志望の美しいアリシア(レオノール・ワトリング)に恋心を抱くベニグノ(ハビエル・カマラ)。アリシアは交通事故に遭い、植物状態になってしまうが、ベニグノは幼いころから寝たきりの母親の世話をしてきた経験を活かし、アリシアの介護士となって献身的に尽くす。
一方、ライターのマルコ(ダリオ・グランディネッティ)は女闘牛士のリディア(ロサリオ・フローレス)と出会い、2人は恋人となるが、リディアもまた競技中の事故で昏睡状態に陥る。リディアはアリシアのクリニックに入院し、同じ境遇のマルコとベニグノにいつしか友情が芽生えていく。

バレリーナと女闘牛士、偏った愛しか知らない男と相手を思いやる男、死んでゆく女と生き返る女、みごとに対称的な2組の男女を描くことで、さまざまな愛の形を浮き彫りにする。

ベニグノがアリシアをレイプし妊娠させてしまうというショッキングな事件により、ベニグノは投獄されてしまう。
ベニグノの行為には嫌悪感を抱かずにいられないが、死産したことによってアリシアは奇跡的に生還する。
4年間、意識が眠っている間も休むことなく語りかけられ、愛を受け続けた女は眠りからめざめるが、ただ泣くばかりの恋人に去られた女はついにめざめることはなかった。どちらがより幸せなのかという極論は意味をなさないが、少なくともベニグノの献身的な介護は、マルコの“諦め”よりも意味のあるひとつの愛の形と思える。ベニグノは意識のないアリシアの全身を清拭し、髪を整え、生理の処理もする。休みの日には、アリシアの好きだった舞台や映画を鑑賞し、内容を語って聴かせる。家族だってなかなかここまでできないだろう。

だが、ベニグノとアリシアの間に“関係性としての恋愛”は成立していない。ベニグノの独善的で一方的な愛を、アリシアは自分の意志でもって受け入れることも拒否することもできず、ただ受け続けるだけだ。眠っている間に、見ず知らずの王子にキスされて目覚めた眠り姫は、王子を受け入れてハッピーエンドとなったが(よく考えたらこの眠り姫は何を考えているのかよくわからないね)、アリシアはどうだったろう。ラストで、バレエ教室に復帰し、舞台を鑑賞するアリシアは、少なくとも事実は事実として受け入れ、なおも前向きに生きていこうとする姿のように見えるが、ベニグノへの感情は言及されないので想像にゆだねるしかない。

ベニグノの行為は許されることではないが、ベニグノにとって何よりも重い罰は、刑務所に入れられたことではなく、自身の行為によってアリシアを目覚めさせてしまったことではないだろうか。ベニグノは人形のアリシアを愛し、何も応えない彼女に尽くすことが幸せだったのだから。
「アリシアと同じ世界に行く」と言い残し、昏睡状態に陥る量の薬を飲んで自殺を図り、結局は死んでしまうが、たとえ首尾よく植物状態になったとしても、そこにアリシアはもういない。彼の代償にふさわしいのは、やっぱり植物状態に陥らせることではなかったのかと思う。彼を殺してしまったことによって、結局は“愛の奇蹟”的な美談となってしまっていることは残念だ。

アルモドバル監督は初期のコメディ路線しか観ておらず、エキセントリックな映画を撮る人というイメージだったのが、本作は深く静かで美しい映画だった。
非常に完成度は高いが、個人的には、初期の洗練されすぎていない独特の色彩感覚やエキセントリックすぎるキャラクター造形のがより好みかな。

【★★★☆☆】

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posted by bambi at 18:39 | Comment(4) | TrackBack(9) | LOG #た-と
この記事へのコメント
はじめまして。TBありがとうございました。
アルモドバル作品は、これがはじめてだったのですが、衝撃とともに何て美しい愛なのだと感じずにはいられなかったです。
ベニグノが植物状態になると、またこの作品も変わったと思いますね。
こちらからもTBさせてくださいね。
Posted by cocoa at 2005年08月28日 06:37
>cocoaさま
この監督の作品は、独特の味があって、何も考えずに観てもすぐにわかります。独自の世界を確立しているすばらしい監督ですね。

何か語らずにはいられない映画です。
この監督の作品はもっと観ておかないといけないと感じました。
Posted by bambi@管理人 at 2005年08月28日 22:03
>彼の代償にふさわしいのは、やっぱり植物状態に陥らせることではなかったのかと思う。彼を殺してしまったことによって、結局は“愛の奇蹟”的な美談となってしまっていることは残念だ。

面白い視点ですね。1度しか観ていないので、もう一度観たくなりました。
Posted by マダム・クニコ at 2005年08月29日 00:09
>マダム・クニコさま
あのラストは、ベニグノが赦された感じがしてしまって、ちょっと納得がいきませんでした。

まぁ、“愛の奇蹟”の寓話としては成功していると思いますが。
Posted by bambi@管理人 at 2005年08月29日 20:59

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