【ラピュタ阿佐ヶ谷】
“田中登の官能美学”にて。
百文女郎、死神おせん(中川梨絵)の苦界に居直って生きる姿を活写した名作。田中陽造の絶妙な脚本、高村倉太郎(キャメラ)、熊谷秀夫(照明)の名人芸が奇跡のように融合し、黒子を使っておせんが人形振りで踊る名場面の様式美は語り草になっている。
強烈なタイトルほどにはハードな性描写はないものの、全編こだわりの様式美とあいまって、すこぶる官能的。
石畳に墨で描かれたスタッフ・出演者・そしてタイトルのクレジットがパンするオープニングからぐぐっと引き込まれてしまう。
中川梨絵は現代的な顔立ちで、大きな眼が印象的。美人というより、ふっくらした愛らしい容貌である。
交わる男は次々と変死、“死神”という物騒な異名をとるおせんだが、気っぷのよさと気丈さと、情の深さをあわせもつ魅力的な女性。亭主きどりのヒモ・富蔵に売られ、多勢の男になぶりものにされても、富蔵にすがられ強く抱かれると捨てることができないのだった。
ときには甘くささやいて男を誘い、ときにはドスをきかせて男をはねつける、中川梨絵の柔軟な演技がいい。
富蔵が刺されて死んだと思いこみ、供養と称して死体から切り取った指を身体に這わせるシーン、黒子姿の男に抱かれ、人形になりきって操られるおせんと人形浄瑠璃がカットバックするシーンなどはゾクゾクするほど妖しく美しく、また物哀しく、魅入られるようにスクリーンに釘付けになってしまった。
豊かな色彩美と、生き生きとした人間描写。ロマンポルノという枠にとらわれずに観ても、極めて面白く、豊潤な日本映画である。
ラピュタ阿佐ヶ谷はとても雰囲気の良い名画座なのだが、男性ばかりのレイトショーに紛れ込んでのロマンポルノ鑑賞はさすがに肩身がせまかった。たぶん、同席の男性諸氏も気詰まりだったことと思う。
でも、「実録 阿部定」(5/13-19)「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」(5/27-6/2)「(秘)色情めす市場」(6/17-23)あたりは観ておきたいので、また行っちゃおう。
評価:★★★★☆
(秘)女郎責め地獄
中川梨絵 田中登 山科ゆり
ジェネオン エンタテインメント 2005-12-22
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